《退職者インタビュー》急拡大するBCGのリアル

業界情報

数あるコンサルファームの中でもトップ層に君臨する、BCG退職者へのインタビュー記事です。タイトル別の給与レンジや大幅に短くなった労働時間、急拡大に伴うコンサルタントの質の低下など、盛りだくさんの内容になっていますので、是非最後までご覧ください。

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一ノ木八郎  39歳 中途で金融からBCGに入社、2010年退社
楠木正    35歳 中途で事業会社からBCGに入社、2016年退社
乃木希    30歳 中途で他ファームからBCGに入社、2021年退社
(2回に分けてインタビューを実施)

少数精鋭から巨大ファームへの転換点

– BCGが急速に組織を拡大していると話題ですね?
一ノ木:僕がいた頃はコンサルタントの人数が200人くらいでした。業績は良かったけれど、組織を拡大しようというよりは、もっと質を高めようという雰囲気だったので、隔世の感がありますね。もう倍以上になってるんでしょう?
楠木:僕がいた時期で600人、今はもっと増えていると聞きました。
乃木:そうですね。700人以上いるでしょうね。日本のコンサルティング市場は拡大基調にありますが、GDP比でみると他国に比べて相当伸びる余地があり、こんな成長ではまだまだ足りないという考えが、組織拡大の背景にあります。

– 取り扱うテーマも変わっているのでしょうか?
楠木:CEOアジェンダを狙うというスタイルは変わっていません。ただ、戦略的なテーマを取りに行くだけではなく、そこにひもづく戦略以外のプロジェクトもどんどん取りに行くようになっています。
その中には、BCGがやる必要がないようなプロジェクトもあるし、そもそもプロジェクト化する必要がないような予算消化のためだけの案件もあります。
特に、大規模プロジェクトの実行支援は、一発で売上が立つので、多くのパートナーが狙っています。日本企業が行っている大規模プロジェクトがあれば、そのうちかなりの案件に対して、BCGが提案しているんではないでしょうか。
戦略案件であれば、通常4-5人のチームがスタンダードですが、大きな実行支援案件は40-50人がアサインされることもあります。実行支援であってもコンサルタントの単価は変わらないので、とんでもない金額になります。
乃木:ほんとにそういう案件が目立つようになってきました。
「これって戦略の仕事なの?」というような案件が結構な数あります。1年間スライドを書かないというコンサルタントもいるらしいです。やばいですよね。
僕がBCGを辞めようと思ったのも、こんな案件やってたら成長が止まってしまうと思ったからです。

ジュニアから進む、”脱”プロフェッショナル化

– 総合ファームの方も同じ悩みがあると聞きましたが、BCGでもそうなのですか?
一ノ木:僕がいた時代でも、案件のえり好みというのはありましたが、一番嫌われていたのはDD案件ですね。つまらないからというわけではなく、コンフィデンシャリティの関係で部屋に”監禁”されるうえ、あまりに仕事量が多く、地獄だから。笑
確かに実行フェーズの案件もちょっと嫌われてはいましたが、あまり多くなかったので、それほど目立って敬遠されるような感じではなかったかな。
楠木:巨大プロジェクトのPMO案件は、あまりに全体が巨大すぎて、自分がどの部分を担っていて、どう成果につながるのかが見えにくいという欠点があります。対応力は高まりますが、問題解決とはほど遠い内容です。コンサルタントとしての手ごたえを求めるならば、こういう案件では満足できないでしょうね。
乃木:おっしゃる通り。高い給与やBCGのブランドに惹かれて入社した人はさておき、成長したいと思ってBCGの門をたたいた人にとっては、悩ましい問題です。
プロジェクトの中身だけでなく、残業やコミュニケーションの制約も、同じく成長する環境作りを妨げていると思います。

– 残業とパワハラですね?
乃木:はい、パワハラ、セクハラ、残業規制が厳しく管理されるようになりました。
ジュニアに深夜まで残業させることはできなくなり、きつい口調でフィードバックする、いわゆる「詰め」もできなくなりました。
その結果、ジュニアが最初に通過しなくてはならなかった、プロへの脱皮ができないままプロモーションするということが起きています。
楠木:夜8時までしか働けない制度になりましたよね。そんな制約があると、そうなりますよね。
一方で、シニアは修羅場を潜り抜けてきた猛者が揃っているため、要求される質はそう簡単には下がらない。その板挟みになっているのがマネージャーです。マネージャーが徹夜するような光景を見ると、矛盾を感じます。マネージャーはコスパが悪いと、マネージャーに昇進する前に辞めていく人も多いですね。
乃木:ジュニアの成長機会が少なくなっている問題は、いずれ組織全体でのコンサルタントの質の低下という課題になっていくのではないかと思っています。
最後の最後まで責任を負うプレッシャーがない楽な仕事で、それなりの給与がもらえるようになったため、自分はできると勘違いするジュニアが増えています。数年後には、未成熟なマネージャーが誕生してくるので、その時に組織がどうなっているのかは興味がありますね。

日本ならではの戦略コンサルティングを作った東京オフィス

– 昔のBCGと比べてどうですか?
一ノ木:確かに、BCGの東京オフィスは市場環境に合わせて変化することで成長してきた実績があります。世界的には、マッキンゼーがナンバーワンの戦略ファームですが、日本ではBCGがナンバーワンです。今起こっている変化も、10年後に答え合わせをすると、正解だったということもあるかもしれませんね。
少し昔の話ですが、元々BCGはファームの中で一番最初に東京オフィスを作っています。マッキンゼーに勝つために、プライスレンジを調整して売ったり、ロジックだけではなく、経営者の人となりに合わせた柔軟なアプローチを取ることで、BCGのファンを作ってきました。これは、大前研一さんと堀紘一さんの違いが如実に表れています。
マッキンゼーに勝っている数少ないマーケットということで、BCGグローバルの中で、東京オフィスのプレゼンスは非常に高いです。
外資系企業のあるある話として、調子が悪くなると本社から人が送り込まれるという事がありますが、東京オフィスのトップはずっと日本人です。それだけビジネスが順調で、信頼されているということです。
今の拡大路線も、日本の状況に合わせた柔軟な変化として捉えてもいいかもしれません。
乃木:振り返ると、組織としての正解だったということはあり得ますね。ただ、1人のビジネスパーソンとして、これをやりたかったわけじゃないという人が多く出てきてしまうかもしれない。

転職活動ではまだまだ健在のBCGブランド

– そうは言っても、キャリアとしてBCGのブランドは大きな意味があったんではないですか?
乃木:そうですね。元BCGということで、得をしている面はあると思います。
楠木:やはり、BCGで学んだことは大きいし、そのことを周囲の人が評価してくれる環境にありますね。特に、課題の構造を捉え、答えを導き出すためのアプローチはどこでも使えます。
乃木:逆に言うと、コンサルの仕事は全て同じアプローチだから、思っていたほど変化がないという事もありますね。
一ノ木:プロフェッショナルとしてここまでやらなきゃダメ、という自分の中の基準ができたことは大きな価値ですね。楽しようと思ったらどこまででも楽できますが、ここまでは絶対に超えたいという欲求のようなものが、自分を律する原動力になっています。
特に、ただ構造化したりきれいに整理するだけでなく、何か新しいことや、意外なことを示唆として導き出そうとする、”面白い”への執着心や嗅覚は財産ですね。
楠木:そうですね、それは総合ファームの卒業生との違いかもしれない。

起業家の輩出ではマッキンゼーが上手

一ノ木:だけど、マッキンゼーと比べると、BCGは卒業して起業家として成功した人が少ないような気がするよね?
楠木:そうそう。それはありますね。あまり明確なことは言えないけど、マッキンゼーとBCGは、「真実の探求者」と「スーパーサラリーマン」という違いがあるような気がします。マッキンゼーはちょっと学者っぽくて理屈っぽいところもあるけど、問題解決のアプローチが厳格なイメージがあります。正しいことを真摯に求めている。
一方でBCGは正しいことがすべてではない。クライアントが感動することを目指しています。どこまで行ってもお仕えすることが好きな人の集まりかなと思います。
コンサルタントとしてはそれで正しいのだけれど、その先に起業家が続いているような仕事ではないかもしれませんね。
一方で、BCGがすごいのは、クライアント企業の役員と相当に信頼関係を作っていて、クライアントの社内政治にも手を貸していることです。もちろん悪用しているわけではなく、クライアントがよくなる方向に持っていこうとします。その先にBCGのセールスにつながるプロジェクトがあることもありますが笑。ここまで信頼されているのかと、驚きました。
乃木:BCGからも少しずつ起業して目立つ人も出てきてはいますが、マッキンゼー卒業の人のほうが目立つことは事実でしょうね。

なんでもありのデスマッチから、地上の楽園に

– 給与面ではどうなんでしょうか?
楠木:僕が辞めてから結構上がったと聞いていて、あまり聞きたくないですね笑
乃木:今は、こんな感じです。
パートナー 5,000万++++++
プリンシパル 3,000万+
プロジェクトリーダー 2,000万+
コンサルタント 1,500万+
シニアアソシエイト 1,000万+
アソシエイト 600万+
シニアアソシエイトは東京だけの職位で、東京オフィスのプレゼンスが高いからこそできている職位です。
一ノ木:かなり上がったなあ。
そう考えると昔の仕事は”なんでもあり”と言われるほど、ひどい労働環境だったので、割に合わないですね。上司からのアドバイスは、「徹夜するなよ」ではなくて、「徹夜明けに熱いシャワーを浴びると、死ぬことがあるらしいからやめとけよ」でした笑。
乃木:今はUp or Outも厳格に運用されていないので、相当居心地がよくなっていますね。
がつがつ成長を求めなければ、給与もいいし、BCGの名刺が持ててプライドも満たされるし、天国のような職場ではないでしょうか。
僕としてはバシバシ鍛えて、残った者だけがプロモーションしていく会社と聞いていたので、ちょっと物足りなさもありました。

コンサルティングは古い働き方

一ノ木:最近思うのは、新興の企業では組織の論理がだんだんと薄れてきて、個人の実力でどんどん認められる土壌がありますよね。もちろん評価に経営者の意向が大きく反映されることはあるでしょうが、経営者が社員と話す機会を豊富に作っているし、経営者自身が公平性や公正性を重視する人が増えていると思うので、社員は変に組織イシューに振り回されずに、シンプルに仕事に打ち込めるんじゃないかなと思います。
これって、昔コンサルが伝統的な日本企業と比べて魅力的だった点じゃなかったかなと思って。
楠木:今は組織が大きくなって、階層化しています。風通しが悪いとは思いませんが、自由にコミュニケーションができるわけではありませんね。手順を踏まないといけなかったり、政治的に振る舞うことが求められたり。
それに、プロモーションは上司ガチャという側面が強い。将来案件をとることができるパートナーにお仕えすることになれば、自分のプロモーションの可能性が高くなりますが、そうでないパートナーを引いてしまえば、会社を辞めなくてはならなくなります。
これっていわゆる派閥と同じようなものです。すごく古臭いなと思います。
もっと言うと、仕事が取れるかどうかは、パートナーの力量だけでなく、クライアントの業界の業績の浮き沈みや、クライアント側の決裁者の人事一つで決まることもあります。そうした要因で、数十億規模のクライアントが、急速にしぼんでしまうことも起こっています。
こうなってしまうと、そのクライアントを持っていたシニアパートナーと、それに紐づくパートナーは全滅です。
乃木:僕は、先ほども言ったような、売る必要のないプロジェクトを売るようになったことで、真剣味のないプロジェクトが増え、つまらなくなったし、学ぶことが少なくなったなと思ったことが退職の理由なのですが、もはや個人の実力を磨けるかどうかも、運任せになっている現状は、憂慮すべきだと思います。

BCGのダイナミックな変化と、それに伴う働く環境や仕事内容の変化についてたくさん語っていただきました。皆さんありがとうございました。

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