コンサル業界におけるコロナショック

コロナショック 業界情報

様々な産業に影響を及ぼしたコロナショックですが、コンサルティング業界にはどのような影響があったのでしょうか?この記事では、コンサルティング業界へのコロナの影響やその後の回復、リーマンショックとの違いについて記載しています。

2020年4月は空白の1か月

 コロナショックは、経済に大きなダメージを与えました。
日本の2020年のGDP成長率はマイナス4.8%となり、2009年のリーマンショックの後以来のマイナス成長となりました。
特に、飲食業や旅行業には大きなダメージを与え、2021年3月時点での倒産件数は、飲食店178件、建設・工事業97件、ホテル・旅館80件となっています(出所:帝国データバンク「新型コロナウイルス関連倒産」)。

 ではコンサルティング業界はというと、一時的にダメージがあったものの、今では回復し、コロナ前を上回る水準まで回復・成長しています。とはいえ、2020年の4月頃は、この先どうなるか全く分からない状況でした。新規案件が一切ストップし、私たちにとっては、「空白の1か月」になりました。中には、生きるために必要な空気がなくなるに等しいということで、「真空の1か月」と言っていた人もいたほどです。
 これは、営業機会が失われたことと、企業側の体制が整っていなかったという2つの理由があります。
営業機会が失われたというのはどういうことかというと、コロナで出社すら制限している企業が多かったため、4月以降のプロジェクトの提案がままならず、新たにスタートするプロジェクトが軒並みペンディングになってしまったということです。
 そして企業側の体制という意味では、決算始まりである4月の手前でコロナ危機が始まったというのが最悪で、本来はとっくに決まっているはずの、4月はじまりの年度予算を組み切れていない企業も多く、さらには先行き不透明な中で、どのようなプロジェクトを進めるかを決めきれていないクライアントがあったのです。こうした企業においては、提案はできてもプロジェクトがスタートできないという事態になっていました。

 一部のコンサル会社(特にシンクタンク)では、民間は期待できないから官にということで、官公庁の入札案件への応募が集中し、官公庁案件は、大手シンクタンクが普段取らない仕事もごっそり獲得していくという事態になりました。

リーマンショックの後とは違う、その後のリカバリー

 2008年にも同じようなことが起こっていました。リーマンショックです。
リーマンショックの際も同様に、一気にコンサルティング需要が落ち込み、コンサルティング業界各社も人員削減を行いました。
その後長らく日本企業の回復を待ち、徐々にマーケットが回復するにつれてコンサルティング会社も体力を取り戻すという経過をたどりました。

 しかし今回はこの回復の仕方が全く違いました。5月、6月とプロジェクトがスタートし、夏ごろにはコンサル各社で人手が足りないという話も聞くようになってきました。特に戻りが早かったのが、デジタルの引き合いです。中でもERP関連の案件は、コロナによる需要がどう変わろうと、進めなくてはならないものですから、案件の引き合いが旺盛になりました。

 そして今や、コンサル業界は、コロナ前の水準度超えて、成長軌道に戻しています。その中でも何かと話題になっているのが、Big4の一つであるEYです。2019年から「プロジェクトドラゴン」を掲げ、コンサルタント3,000人の体制を目指す野心的な計画を進めています。コロナ禍を経ても目標は変わらず、順調に進捗しているということで、EYの戦略がうまく行っていることに加えて、マーケットの需要が確かなものであることが想像できます。

チャージ%という概念が崩れた

 コロナは、オフィスワークをリモートワークに変えました。コンサルティングも例外ではなく、どのファームも自宅で作業をし、自宅から会議に参加するというスタイルに転換しています。そしてこの働き方の効率の良さに誰もが気付いてしまったので、以前のような100%オフィスワークの働き方に戻ることはないでしょう。
 コンサルティングが日本でそれほど認知されていなかった頃は、PCを使って仕事をすることすら当たり前ではなかったため、スライドは手書き、グラフは方眼紙に作図するというようなやり方だったといいます。したがって、時間はかかるものの、求められるアウトプットのスピードもそれほど早くなかったといいます。
 それがPCですぐにスライドが作れるようになり、エクセルで大量のデータを即時に扱えるようになってから、求められるスピードは一気に早くなりました。さらにリモートワークによって移動時間が無くなったことで、ミーティングが隙間なく埋められるようになり、さらにスピードが上がっていると感じます。
 さらにスピードだけでなく、労働時間のキャパシティについても考え方が変わりつつあります。基本は1人のコンサルタントは1つのプロジェクトを担当します。これを100%アサインと言い、すなわちコンサルタントの持ち時間を100%プロジェクトに使うことを指します。1人が2つのプロジェクトに均等に時間を割く場合は、50%アサイン×2プロジェクトということになり、合計は100%になります。これは、プロジェクトルームや、顧客のオフィスにコンサルタントが物理的に存在する必要があるため、100%が限界という前提があります。
 リモートワーク環境下では、この大前提が崩れつつあります。リモートでの会議2つに同時に出席したり、累計で100%以上のチャージをして多くのプロジェクトを手掛けるということが起こっています。人材が不足しているという状況下で、仕方のないことかもしれませんが、クライアントに対しても、仕事をするコンサルタントにとっても、あまりいいことではありません。

ホワイトボードを囲んで議論する、学生サークルのような活気が失われた

 リモートワークでの仕事のスタイルは、コンサルティングワークから楽しさを奪ったということをいう人が多くいます。明確な答えがない問いに対して、優秀な仲間とホワイトボードを囲んで、ああでもない、こうでもないといいながら答えを探す過程が刺激的であり、割り振られた仕事をただこなす仕事はつまらないということのようです。私も、久しぶりに対面で議論すると、いいアイデアが出たり、議論が活性化したりする場面を何度か経験しており、コンサルティングワークにおいて学生サークルのような「ワイガヤ」の活気というものが非常に大切であることを痛感しています。
 あるコンサルタントは、このワイガヤをオンライン化しようとし、仲のいいコンサルタントと24時間オンラインでつなぎながら仕事をするということをやっていました。時にはプロジェクトの相談を持ちかけたり、昼頃になると、リモートで「何食べる?」とランチに誘います。そして夜は、どちらかが寝息を立てるまでオンラインでつながり続けて仕事をするという徹底ぶりでした。
 リモートワークはなくならないと思いますが、定期的な出社や、よりカジュアルに話しかけられるツールの整備など、リモートワークを補完するような働き方がこれから生まれていくのかもしれません。

コメント