コンサルタントの経歴の価値(前編)

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最近はコンサルファームの拡大傾向により、コンサルタントの転職市場における価値は薄れています。ただ、それでもコンサルタントという経歴は、転職市場において有利に働きます。何が評価されているのでしょうか。この記事では10の要素のうち、6つの要素について解説します。

経営者の右腕になるコンサル出身者

 コンサルタントの仕事はクライアント企業の経営課題を解決する仕事です。この経験は、コンサルタントを卒業した後のキャリアにおいても大きな武器となるため、企業の経営者として招かれ、経営の当事者として経営課題の解決にあたることも少なくありません。経営者という立場ではなくても、コンサルティングの経験を活かして、様々な企業の中枢に入って活躍する人たちが数多くいます。ユニクロや楽天など、日本を代表する企業がコンサルタントを責任あるポジションに積極的に登用しています。また、外資系の製薬会社や消費財企業なども、元コンサルタントの宝庫となっています。
 海外でも同様です。韓国サムスンは、2017年までグループ全体の戦略を担う「未来戦略室」を設置していました。100人以上の陣容で、サムスングループの司令塔として様々な戦略を打ち出す役割を担っており、ここでは元コンサルタントが活躍していたといいます。政治的な風向きの変化に翻弄され、解体されてしまいましたが、サムスンの成長を見れば、成果をあげていたように見えます。
 企業側からすると、元コンサルタントを雇うことには大きなメリットがあります。コンサルティング会社に依頼をするよりもはるかに安いコストで、プロジェクトを内製化できるからです。また、コンサルタントが入社することが周囲の人材にも刺激になり、人材育成につながることもあります。こうした効果を見込めるのであれば、給与面で破格の条件を提示しても元が取れるというわけです。

ビジネス10種競技

 ではなぜコンサルタントが人材市場において高く評価されるのでしょうか?
おそらく最も評価されているポイントは、総合力の高さでしょう。企業の問題解決においてさまざまなスキルを使いこなすことで、幅広い問題に対処できる能力を身につけているからです。
 私は、コンサルティングはビジネスの10種競技であると考えています。多様な能力を駆使し、総合力で勝負するという特徴が、陸上10種競技に似ているからです。ちなみに、陸上の10種競技とは次のような種目で行われます。

1日目:100m走、走り幅跳び、砲丸投げ、走り高跳び、400m走
2日目:110mハードル、円盤投げ、棒高跳び、やり投げ、1500m走

 短距離走の瞬発力と中距離走の持久力、投てきのパワーとテクニック、跳躍の距離と高さなど、様々な角度から陸上の総合力を評価していることが分かります。

 面白い点は、走る競技は必ず得点が付きますが、投てきや跳躍の競技では失格になって得点が付かないことがあるということです。したがって、0点がついてしまった選手は途中で棄権していき、最後まで競技を行う人数は少なくなるといいます。各種目で技術を磨き、限界に挑戦するだけでなく、確実に記録を出せるよう最後までメンタルコントロールができるかということも重要な競技だということになります。
 コンサルタントに求められる能力も非常に似ています。さまざまな問題解決スキルに加えて、マインドの要素が極めて重要です。この両輪がうまくかみ合わないと、成長スピードが上がらずにドロップアウトしてしまいます。

 次の図は、コンサルティングを通して身につくスキルとマインド10の要素です。大きく分けると、問題の見極めができる、問題解決の方法を見つけられる、作業の質とスピードが猛烈に上がるという3つのスキルセット、そして自分品質が高まる、折れない・ブレないという2つのマインドセットです。

6つのスキル

問題を見極めるスキル(①論点思考、②読人力)
 コンサルタントにとって最も重要な能力は問題を見極める能力です。「問題解決が仕事でしょ?」と思われるかもしれないですが、そもそも解決すべき問題が何か、が分かっていないと問題を解くことができません。この時に必要となる考え方を、論点思考と呼びます。たくさんある問題点の中から、何が真の問題点かを導く考え方のことで、経営課題の「ツボ」を探す感覚と言ってもいいでしょう。論理的に問題を分解したり、面白い答えが出そうな筋を見極める頭の使い方のことを指します。
 また、正論だけでなく、クライアントが何を求めているかを捉えるためには、背景にある政治や人間関係を読み取らなくてはなりませんが、こうしたことは会議の場で語られるようなことではないため、クライアントの発言や、その時の表情などから読み取らなくてはなりません。人間の感情を知り、人の心を読み取るスキルとして、私は「読人力」という造語を用いて表現しています。読人力が活躍するのは、企業人として建前で話しているけれども、本音はこうしたいという、隠れた論点を見つける場面です。この隠れ論点に目をつぶったままプロジェクトが進むと、最後の最後で、「正しいんだけど、なんか違うんだよなあ」という最悪のケースが起こりえます。頭とハートの両方を使って、論点を見抜かなくてはならないのです。

問題解決方法を見つけるスキル(③仮説思考、④フレームワーク構築力)
 問題を見極めることができると、次はその解決策を考えることになります。ここで多くのビジネスパーソンがよくやってしまう誤りが、いきなり解決策を当てはめてしまうことです。早く答えが欲しいあまりに、問題の原因を解明するプロセスを飛ばしてしまいたくなるのですが、同じ事象が起こっても、原因が異なることはよくあります。原因を究明しない限り、真の解決策は見つかりません。
 なぜ原因究明を飛ばしてしまうかといえば、難しいからに他なりません。データを見つけ、そのデータから客観的に原因を浮き彫りにするという作業は、困難を伴います。コンサルタントはこの作業に溺れてしまわないよう、「どこに原因があるのか?」に対する答えを早道で確実に探す嗅覚を身につけています。それが仮説思考です。仮説思考とは、端的に言えば「答(仮)」で、今考えられる中で最善と思われる「(仮)」の答えのことを指します。
 では、どうやったら筋のいい仮説を発想できるのか?これは決してひらめきではありません。前提として考える量をしっかり確保する必要がありますが、考える際に、きちんと枠組みを作って考えられるかどうかが重要です。マーケティングの4PやSWOT分析などのフレームワークがありますが、こうした既存のフレームワークに加えてカスタムメイドのフレームワークを作って思考を巡らせることで、頭の中で仮説を作り、検証し、鍛えるということを繰り返します。

作業の質とスピードが猛烈に上がる(⑤構造化、⑥作業設計)
 問題を見極める過程や、問題解決の方法を探す過程で、コンサルタントは膨大な分析やインタビュー・アンケートなどの作業をこなします。それも、科学的にアプローチするため、客観性があり誰もが納得できるアウトプットが求められます。初めは苦労しますが、経験を積むうちにだんだんと楽にこなせるようになり、作業の質とスピードが上がっていきます。
 コンサルタントのアウトプットの質を支える要素の中でも、最も汎用的に効くのが「構造化」と呼ばれる技術です。物事を意味のかたまりに分け、聞き手が理解やすく整理することです。「わかる」は「分ける」とよく言いますが、いかようにも分類できるものを、意味のある形に、論理的にも成立する形で分ける作業というのは、深い理解なしにはできないものです。一見単純な作業のように思ってしまいますが、意外と難しいものです。
 そして、コンサルタントの仕事のスピードを上げる最も重要なやり方は、時間の逆引きです。
複数の作業を進める場合に、なんとなく順番にこなすのではなく、最短で終わらせるためにゴールから逆算する作業設計のことです。エリヤフ・ゴールドラットが提唱しているTOC(制約条件の理論)の小規模版のようなもので、仕事の依存関係やリードタイムを考慮し、合理的に最短ルートで仕事を進める方法です。この方法を採ると、いつアウトプットするかを先に決めることになるので、プレッシャーにさらされるという代償を払う必要はあるのですが、驚くほど早く仕事が進められるようになります。コンサルタントは常にこの方法で猛烈なスピードで仕事を進めます。

続きはコンサルタントの経歴の価値(後編)でご紹介しています。

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