コンサルタントの経歴の価値(後編)

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コンサルタント経験者は、転職市場において引く手あまたとなります。何が評価されているのでしょうか。コンサルタントの経歴の価値(前編)では10の要素のうち6つについて紹介しました。この記事では残る4つの要素について解説します。

コンサルタントのマインド

 一般的には、ロジカルシンキングやフレームワークなど、スキルに注目が集まりがちなコンサルタントですが、コンサルタントがプロフェッショナルたりえている要因は、間違いなくマインドです。マインドさえ身につけることができれば、スキルはついてくるものです。入社してすぐに自分の力不足を思い知らされたコンサルタントであっても、そこでマインドセットが出来ていれば、数年後には見違えるほど頼れるコンサルタントに成長していきます。
 よくコンサルタントの成長を、グラフの切片と傾きで説明をします。切片とは、グラフのx=0におけるyの値です。すなわち、スタート地点でのパフォーマンスを指します。そして傾きとは、成長のスピードを表します。どれだけ切片が大きくても、結局勝負がつくのは傾きだ、ということをよく言います。入社時点の実力は大した差ではなく、どれだけのスピードで成長できるかが大事だということです(下図参照)。そして「傾き」は、コンサルタントのマインドによって形成されるものです。だからこそ、マインドはコンサルタントの重要な要素なのです。

4つのマインド

 では、コンサルティングを通じて具体的にどのようなマインドが身につくのか、具体的にみていきましょう。
前回の記事で紹介した10のスキル・マインドを再掲しています。このうちマインドとして挙げているのは、自分品質が高まる「⑦知的リーダーシップ」、「⑧当事者意識」、折れない・ブレない「⑨ストレス耐性」、「⑩脱プライド」の4つです。

自分品質が高まる(⑦知的リーダーシップ、⑧当事者意識)
 自分品質が高まるという概念は、抽象的でわかりにくいかもしれませんが、これこそがプロフェッショナルとして脱皮するために必要な、いわゆるプロ意識を育ててくれる要素です。
 プロ意識という言葉には、人によってさまざまな解釈があります。NHKの番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」では、多様な業界の第一人者たちが最後に「プロフェッショナルとは?」という質問を投げかけられますが、答えはきわめて多様です。
 ビジネスパーソンに限らず、スポーツや芸能、医師など、多様な対象に聞いているわけですから、当然答えは幅広いのですが、それでも、言い回しこそ違えど、ほとんどで共通しているのは「自分のやる仕事はいつもこのレベル以上」という、自分品質を高いレベルに維持する意識です。常に高いパフォーマンスを出すための原動力となるものです。
 コンサルタントの仕事に当てはめると、クライアントにバリューを出すために、チームの知的創造に貢献しようとするマインド、すなわち「⑦知的リーダーシップ」ということになります。リーダーシップといっても、「俺についてこい」という統率する資質のことではなく、チームの論点や仮説の進化に責任を持つ姿勢のことを指します。
 実は、論点や仮説がまとまり始めると、コンサルタントといえど落としどころに向けて作業終わらせてしまいたいという誘惑にかられます。ところが、これを壊すリスクを冒してでも、もっといい答えを探す姿勢がなくては、クライアントの期待値を超えることはできません。常により良い答えを追及する姿勢が知的リーダーシップなのです。

 もう一つ、コンサルタントとしての仕事のレベルを維持するために欠かせないマインドが「⑧当事者意識」です。ここでいう「当事者」には2つの意味があります。クライアントとクライアントの顧客です。
 クライアント当事者の意識を持つという意味では、コンサルタントはクライアントと同じ立場で物事を考えるという意識が欠かせません。コンサルタントは第三者として企業の経営にアドバイスをする仕事ですが、もはや第三者としての客観的視点だけではクライアントに評価される仕事はできなくなっています。
 特にその点が顕著になるのがスコープの決め方です。スコープとはプロジェクトでカバーする論点の範囲のことで、プロジェクトの最初に決めておくものだすが、プロジェクトの道中で見直しを求められることも少なくありません。従来であれば「それは我々の仕事ではない」と断って、本題に集中できるよう対処したものですが、最近はクライアントの求めることに合わせる柔軟性の方が重視されます。
 2つ目の当事者、クライアントの顧客当事者の意識を持つという意味では、仕事に具体性や納得性を持たせるためにユーザーになり切ったり、現場社員の気持ちになり切ったりして、あたかもその人が乗り移ったかのようにディープダイブする「イタコ的当事者意識」が求められています。
 あるプロジェクトでは、高齢者の気持ちになり切ろうと、高齢者用のおむつで2週間生活したコンサルタントがいたり、営業マンの気持ちになるために営業マンに四六時中同行したコンサルタントがいたりします。こうした調査は、極めて面白い現場ネタの宝庫です。「えっ、そこまでやってくれたの?」という言葉がクライアントから出てくればしめたものです。

折れない・ブレない(⑨ストレス耐性、⑩脱プライド)
 プロジェクトにおいて、トラブルはつきものです。入念な計画を練って臨んだとしても、初めから終わりまで予定通りに終了することなどありえません。必ず1度や2度は胃がキリキリと痛むような困難な曲面がやってきます。若手のうちは、どうしていいかわからず右往左往してしまうものです。「自分のせいでプロジェクトが失敗したらどうしよう」、「このプロジェクトでひどい評価がついてしまったらどうしよう」というプレッシャーに押しつぶされそうになります。
 ところが、チームの力はこうした局面を必ず打開してくれます。リーダーはどんなピンチになっても、何とか解決策を見出したり、別の手段でバリューを出したりするなど、数多くの引き出しを持っています。チームと一緒に、修羅場になっても解決できるという経験を積んでいくことで、困難な局面をどうにか乗り切ろうと闘う姿勢が身についてきます。これが「⑨ストレス耐性」です。
 ストレス耐性がついてくると、クライアントから厳しい言葉を投げかけられ、厳しい制限時間の中で答えを探さなくてはならない状況でも、不思議と気持ちは落ち着いていられます。冷静な判断ができている自分を客観的に見ることができ、自信をもって対処ができるようになります。私はビジネスパーソンの真価は、ピンチの時に見せる姿に現れると考えています。平時は誰もが笑顔で仕事ができますが、ピンチになると保身に走る者や、怒り出す者、オロオロするだけで何もできない者など、普段見せない姿が出てくるものです。ストレス耐性を持つ者だけが、常に前向きに仕事ができるのです。
 このストレス耐性は、修羅場の経験なくしては身につきません。コンサルティングは幸か不幸か、修羅場に満ちたエキサイティングな世界ですから、ストレス耐性を身につけるには格好の場所といえます。

 「⑩脱プライド」も欠かせないマインドです。コンサルタントを志望する求職者は、ほとんどが自分の腕に覚えのある人たちです。学生時代や前職での経験をもとに、自分ならやっていけるという自信を胸に入社してくるので、天狗のように鼻が高くなっています。コンサルティング会社では、この高くなりすぎた鼻をできるだけ早く折ってしまいます。必要以上に高いプライドは、成長の妨げになってしまうからです。
 コンサルティング会社は上下関係に関係なく自由に意見を言えるよう「イシューの前では誰もが平等」という前提があります。この前提は、会社が「平等に議論しろ」と言うだけでは建前で終わってしまうので、各コンサルタントがこの価値に共感していなくてはならなりません。そのための条件が脱プライドです。
 年下のコンサルタントに反論された、職位が下の人間から自分よりもいいアイデアが出た、などプライドに拘っていたらとても平常心ではいられないような出来事がプロジェクトではたくさん起こります。これまで自分が一番と思っていた人たちの集まりなのですから、なおさらです。ここでプライドへのこだわりを捨てられないと、正しいと思うことでも否定してしまったり、意見ではなく人で物事を決めてしまったりすることになります。
 これはチームのパフォーマンスに大きく影響し、アウトプットの質が下がるだけでなく、チームの意欲を低下させかねません。一方、脱プライドができたコンサルタントは、真のバリューの追求に全精力を傾けることができ、成長の角度が一段上がります。周囲にもいい影響を及ぼし、プロとしての信頼されることになります。
 ストレス耐性は困難に対して折れない姿勢、脱プライドはバリューに対してブレない姿勢を作ります。これらがビジネスにおいてレベルの高い仕事をするためにプラスに働くことは言うまでもありません。

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