コンサルタントが活躍するプロジェクトのテーマは様々です。コンサルタントと言えば戦略立案を思い浮かべるかもしれませんが、戦略と一口に言っても、全社の戦略から、個別の事業の戦略や、個別のファンクションの戦略(マーケティング戦略や人事戦略など)まであります。さらに、戦略以外の領域も、オペレーションやデジタルなど幅広くカバーしています。この記事を読むことで、より具体的にコンサルタントとしての仕事ぶりをイメージできるようになります。
戦略・業務・デジタル
コンサルタントと言えば、企業の状況について深く洞察し、最適な戦略を導き出すことを業としている、戦略コンサルタントを思い浮かべる人が多いでしょう。しかし、コンサルティングの分野はここ20年ほどで急速に拡大し、戦略だけで語れることは、相対的に小さくなってきました。それほどコンサルティングがカバーする領域は広くなったということです。
コンサルティングの分野を大きく分けると、戦略、業務、デジタルの3つに分けられます。この分類は、いわゆる総合ファームでよく使われる分類の仕方で、業界共通というわけではありませんが、現時点では最も一般的な分類といえるでしょう。
戦略とは、主に外資系の戦略ファームが担うような事業戦略や、マーケティング戦略などの領域です。企業がいかにして有利に戦うかを考えることを対象としている領域です。
一方業務とは、企業が行っている業務を効率的に改善したり、高度な要求にこたえられるようにしたりする領域です。戦略が「どうやって有利に戦うか」を助言するのに対して、「どういう手順で戦うか」という、よりオペレーショナルな観点で助言します。
デジタルは、もともとITコンサルがバックエンド(ユーザーの目に見えない部分)のシステムに関するコンサルティングを担っていた領域です。フロントエンド(ユーザーとのタッチポイントのIT)の重要性が高まり、そこまで含めてシステムに関する助言をするように変わってきて、存在感が高まっています。
戦略が偉いのか?
コンサルティング業界を志望する方の中には、戦略ファームが第一志望という方が多いですし、総合ファームに所属する現役のコンサルタントでも、自分は戦略をやっている、と主張したがる方が多くいます。戦略コンサルタントにはそれだけの価値があると思う人が多いことは事実です。では、本当に戦略コンサルタントが偉いのか?というと、ある意味本当で、ある意味うそと言えます。
「価値=チャージ単価」とみなすならばこれは本当のことです。戦略コンサルタントはチーム1人当たりの平均を取れば、月500~1,000万円程度チャージします。一方、総合コンサルタントは1人平均月200~300万円程度のチャージとなります。ITコンサルの場合は、テーマと体制によって幅がかなりあるので一概には言えませんが、総合コンサルよりもチャージ金額は下がる傾向にあります。「~」をつけて金額に幅を持たせているのは、会社による差があるからです。同じ戦略ファームでも、トップファームとそれ以外ではフィーに差がありますし、総合ファームの中でも、ITコンサルの中でもそれは同様です。
またさらに言えば、ここで提示したのは平均値に過ぎず、役職によって大幅にチャージ金額が異なる混成チームの平均という数字です。人の単位でいえば、戦略コンサルタントのチームでも、月額チャージ200万円~2,000万円まで幅があります。本当にコンサルタントによって10倍価値が違うのか?と疑問に思われるかもしれませんが、答えはYESです。むしろ10倍以上の価値があるでしょう。200万円のコンサルタントを10人雇っても、経験豊富な2,000万円のコンサルタントと同じくらい優れた答えを出すことはできません。したがって、コンサルタントのチャージ単価は、ある意味コンサルタントの価値を示しており、戦略コンサルタントはその尺度においては「偉い」と言えるのです。
ただ一方で、戦略を描ける人が、緻密な業務フローもかけて、デジタルのグランドデザインが書けるのかというと、そういうわけではありません。戦略・業務・デジタルという分類は専門性による分類で、それぞれの領域で専門性を極めた人たちが日々研鑽しています。どれだけ切れのいい頭脳を持っていても、何年も磨いてきた経験には勝てません。戦略が偉いのか?という問いには、戦略コンサルタントが最も優秀なのか?という意味が含まれていると思いますが、そういう意味では、正しくない問いです。
コンサルタントの戦略・業務・デジタルの分類は、あくまでマーケットのすみ分けによるものです。それぞれの領域をまたいで活躍できるコンサルタントは少なく、どちらが優秀ということはあまり意味のない比較です。しかし、マーケットにおける希少性という意味で戦略コンサルタントは高く評価され、優秀である人には飛びぬけたフィーが支払われています。従って、戦略が偉いのか?という問いへの答えは、偉いというわけではないが、すみ分けの結果として希少性の高い戦略コンサルタントに高い評価がついているというところでしょう。
業務とは一体何なのか?
業務という領域は、言葉から中身を想像することが非常に難しい領域です。
誤解を生むことを承知で非常にざっくりいうと、「戦略」の領域が売上や利益をメインの対象として戦い方を考えるのに対して、「業務」は、コストを対象に、戦い方を考える領域です。コストの中で最大である、人件費をいかに効率的にするか、という観点で、現在の業務が無駄なく行われているのか、ということを検証し、より効率的な業務を設計します。
利益を出している立派な会社に、「そんなに非効率な業務があるのか?」と思うかもしれませんが、分業している会社であれば、必ず部分最適に陥っている業務があるものです。より高い視点で業務を見直すことで、無駄な業務をなくしたり、非効率な業務を改善したりして、インパクトを出すことができます。
また、既存の業務を改善するだけでなく、新たな業務プロセスを設計するというケースもあります。例えば、大規模な生産体制と在庫を持ち、広域で一斉に同時発売するというような大規模なプロジェクトは、業務プロセスの緻密な設計なしにはなしえません。需要をどう読み、在庫をどれくらいどこに持つべきか、営業リソースをどのように手当てするかなど、需要と供給をバランスさせるための作戦づくりといえます。
こうした領域は、「ロジスティクス」と呼ばれます。もとは軍事用語で、作戦を実現するための戦力(人員や武器)をどのように確保するかを指していました。それが転じてビジネスにおいて需給コントロールを指すようになったのですが、いかに戦うかを実現するためのプロジェクトであると考えると、非常にロマンがあります。過去、通信会社がブロードバンドを普及させるためにモデムをばらまいていた頃のロジスティクス案件には、コンサルティング会社が関与していました。当時、新規参入組が多く熾烈を極めていた通信業界の戦いの背後には、業務コンサルタントの活躍があったのです。
デジタルにようやくスポットライトが当たった
昨今、コンサルティングのテーマの多くに、デジタルトランスフォーメーション(DX)が関わっています。
これまでデジタル(ITコンサル)と言えば、どちらかと言えば戦略テーマよりも低く見られがちな領域でした。しかし、今やデジタルがわからないと、戦略コンサルティングが務まらないくらい、必須の領域になっています。デジタルをいかに使いこなすかが、事業戦略以上に競争力を左右するようになっているからです。
使いこなすことに価値が移ってきているわけなので、デジタルを使って「何かを実現する」という提案をするだけでは不十分で、デジタルを「どのように使って実現するか」までカバーしなくては、付加価値を感じてもらえなくなってきています。
従来から、システムが持つ事業インパクトは非常に大きいものでした。システム予算は規模が大きく、また売上やコストに及ぼす影響力も非常に大きかったのですが、企業の中での位置づけがなかなか高まらないという悩ましい状況がありました。デジタルはあくまで間接的な部門であり、中枢部門ではないという位置づけになっていたからです。従来IT部門担当が役員になるというケースが稀だったことからもわかります(今やIT部門出身者が経営トップになるということも出始めてきました)。
ところが、デジタル技術を駆使して新たなビジネスモデルを作り上げた企業が成功する姿を目の当たりにして、デジタルの重要性が経営トップにようやく認知されるようになり、ようやくスポットライトが当たるようになりました。しかし、前述のように日本の経営ではデジタルは傍流であると位置づけられたために、社内にデジタル人材を抱えていない企業がほとんどです。したがって、デジタルの新たな取組は、ほとんどが外注されることになり、その受け皿としてコンサルタントに仕事が大量に舞い込んでいます。
コンサルティング業界でも、戦略>デジタルとされてきた流れが、少しづつ変わりつつあります。戦略の実現の要として、デジタルのコンサルタントの専門性にもスポットライトが当たっているのです。
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