コンサルティングのスタイル

業界情報

コンサルティング業界の外から見ると、ファームごとの違いは分かりにくいものです。しかし、それぞれのファームには強い個性があり、コンサルティングで提供する価値も様々です。この記事では、時代とともに変わってきたコンサルティングスタイルと、現在のコンサルティングスタイルのバリエーションについて解説していますので、一口にコンサルと言っても幅広いやり方で価値を提供していることを理解していただけます。

白衣からスーツへ

1900年~19010年頃の、コンサルティングの黎明期には、コンサルタントと言えばビジネスマンというよりはアカデミックな存在でした。ビジネス界では風変わりな人たちだったといえるでしょう。元祖コンサルタントであるフレデリックテイラーは、工場で作業者として働きながら、科学的管理法による作業の効率化の手法を確立しました。世界初のコンサルティングファームであるアーサー・D・リトルも、もとはと言えば、MITの博士であるアーサー・デホン・リトル博士が、技術に関する助言を行う事業からスタートしています。こうしたコンサル黎明期を作った人たちは、ビジネスマンというよりも科学者、白衣を着た変わり者だったことでしょう。

1920年~1930年頃になると、現在世界的に有名な欧米のコンサルティングファームが事業を開始します。そして1960年~1970年頃にはこれらの企業が日本のマーケットにも進出、大前研一や堀紘一といったスタープレーヤーが登場し、日本でコンサルティングの黎明期を迎えます。この頃には、かなりビジネスとしての色合いに変わります。とはいっても、大前研一は元日立の技術者、堀紘一は元読売新聞の記者と、科学者・記者といった、いわゆる”商売”っ気のない職からコンサルタントが生まれていることは、面白い特徴と言えるでしょう。中身は科学者でも、白衣をスーツに着替えた状態と言えます。

そして、コンサルティングの普及とともに、エリートビジネスマンとしての色合いが濃くなっていきます。転職エージェントのindeed社のテレビCMで、女優の二階堂ふみさんが、憧れの先輩がコンサルに転職したことを話題にし、いかにもコンサルという顔真似をするというものです。ここからうかがえるのは、コンサル=頭を使ってスマートに仕事をするビジネスパーソンという印象が、広く認知されているということです。

スーツから作業着へ

スーツを着たコンサルタントは、徐々に作業着に着替え始めています。
それはすなわち、現場の業務支援・実行支援に仕事の領域が拡大し始めているということです。
クライアントからのニーズという意味でも、コンサルティング会社の経営戦略という文脈でも、戦略立案や計画策定だけではコンサルティングとして完結しなくなってきているからです。

例えば戦略を立案したとしても、今や実行するためにデジタルが関わらないことは皆無です。開発が必要になったり、それに伴ってオペレーションの見直しが必要になったり、ということが派生します。クライアント側にこうした問題解決ができる社員がいればいいですが、日本企業の情報システム部門は、自前で開発部隊や開発に必要な計画策定ができる部隊を持たないところがほとんどです。SIerやITコンサルにどっぷり依存しています。したがって、実行段階でも外部のリソースが必要になるのです。

デジタル以外のことでも同様です。戦略立案をしたとしても、それを実行できる人材が充足している組織というのは非常に限られています。その結果、戦略や計画のことをよく知っているコンサルファームが継続して実行まで支援するということが多発することになります。こうした実行段階の支援は戦略立案とは大きく性格が異なります。通常コンサルタントは第三者として客観的なまなざしでクライアントの事業を見ますが、実行支援になると、ある程度社員と同じ目線に立つことも求められます。社員と協力しながら進める必要があるからです。ハイスペックなビジネスマンとして立ち振る舞っているだけでは務まりません。スーツを脱いで、作業着に着替え、社員の目線を持たなくてはならない仕事なのです。

ファームごとのスタイルの差

こうした理論から実行へのトレンドの変化に合わせて、コンサルタントが提供する価値も変わってきています。コンサルタントは自分たちのアイデアを作り上げることと同時に、クライアントといかに合意形成し、実行できるかに腐心するようになってきました。
この二つをどのようなバランスで進めるかにおいて、コンサルティング各社のサービスに幅があり、各ファームのスタイルの差になっています。

自分たちのアイデアに重きを置くならば、反発を承知で「かくあるべし」を説得しながら合意を得ます。一方、合意形成に重きを置くならば、アイデアを多少曲げてでも、クライアントの腹に落ちる考え方を優先するというわけです。

日本においては、マッキンゼーとボストン・コンサルティングには大前研一氏と堀紘一氏のキャラクターが色濃く反映され、マッキンゼーはあるべきを主張するスタイル、ボストン・コンサルティングはクライアントに合わせるスタイルと言われてきました。現在でも両社のコンサルティングには、その影響が残っており、日本のコンサルティングサービスの発展をけん引しています。

誰を味方にし、誰を敵にするか

こうしたコンサルティングスタイルの差は、クライアントにも影響を及ぼします。戦略コンサルティングは時に、クライアント企業の経営者を味方につけ、現場を敵に回すことで戦略の転換を促すというやり方をとってきました。戦略コンサルタントの真のクライアントは、あくまで意思決定を行う経営者であり、実行を担う現場ではないからです。
現場が頭を使って戦略を考えていない、現場が決めたことをうまくオペレーションできていない部分を明らかにし、現場を否定することで、経営者に意思決定を迫るようなことも常套手段として使います。
ただ、実際に現場が怠けていることもあるかもしれませんが、現在の方針やオペレーションになっているのは、それなりの合理性がある場合も多いものです。したがって現場の面々と対立することが往々にしてあります。こう言った場合、コンサルタントにとっては、現場を敵に回してでもいい戦略を作って経営陣に満足してもらえればプロジェクトは成功となりますが、一方で、現場に混乱をもたらしてしまうこともあり、クライアント企業全体へのインパクトを考えたときに、矛盾があることもあります。

実行をサポートするコンサルティングの場合、このやり方では現場が動いてくれない、成果が出ないということになります。したがって、最近のコンサルティングは、中間管理職や、一般社員の中のキーパーソンとの関係性を大切にします。彼らの成果につながることとファームとして達成したいことをリンクさせながら、計画の実現へと導いていきます。

このように、コンサルティングのスタイルは時代の要請とともに変化し、クライアントのカウンターパートによっても変化させながら、進化を続けています。

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