総合化するコンサル業界

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コンサルティング会社は、コロナウイルスの影響下にあっても、各社好業績です。その背景には、コンサルティング業界の総合化があります。しかしながら、業界としての成長が必ずしもいいことだけではない側面もあります。この記事では、なぜ手放しに喜ぶことができないのか?ということについて記載しています。

オピオイド問題の背景にある実行支援の波

 2021年2月、マッキンゼー・アンド・カンパニーは、アメリカで社会問題となっているオピオイド中毒問題に関する責任を問われ、5.7億ドル(約600億円)を支払い、各州と和解することが報じられました。

米最大級のコンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーは、オピオイド系鎮痛剤を販売していた複数の製薬会社にマーケティング助言を行い米国内のオピオイド中毒を悪化させたとして州から訴えられていた問題を決着させるため、5億7300万ドル(約605億円)を支払うことで合意した。

Bloomberg

 マッキンゼーといえば、出身者たちが様々な企業や団体の要職についていることから、その影響力が非常に大きく、「マッキンゼー・マフィア」などと揶揄されることもあります。日本でもマッキンゼーの影響力は時々目にすることがありますが、グローバルではさらに偉大な存在で、トップファームとしての大きな影響力を持っています。
 いくら影響力の大きいマッキンゼーとはいえ、本来コンサルタントの仕事は助言であるにも関わらず、オピオイド問題の責任を、”当事者である製薬会社だけでなく、コンサルティング会社が問われるのか?”と疑問に思った方も多いのではないでしょうか。この背景には、コンサルティング会社が戦略だけではなく、実行までサポートする、実行支援の波が来ていることがあると考えています。すなわち、オピオイド問題においてマッキンゼーは、助言にとどまらないオペレーション部分まで支援をしていたということを、この訴訟が示しているのです。
 実行支援領域の拡大は、戦略ファームのトップであるマッキンゼーであっても例外ではなく、ファーム各社は戦略から実行にすそ野を広げ、業容を拡大しているのです。

拡大する組織

 コンサルティング業界は、急速な成長期に来ています。コロナウイルスによる影響もほとんどなく、各ファームは好調な決算や、強気の計画を示しています。
 アクセンチュアが直近の2021年3月に発表した2021年度第二四半期の決算は、売上成長率が8%(対前年同期)と、大きな伸びを示しています。これはコロナによって前年度の発射台が下がったことによる数字ではなく、前年度も7%成長しているうえに、さらに成長している数字です。
 また、EYストラテジー・アンド・コンサルティングは、日本における「ドラゴン化計画」を打ち出しており、3年で人員倍増、売上2.6倍と、規模も報酬水準も拡大する野心的な計画を進めています。(参考:コンサル業界におけるコロナショック

コンサルティング・ダイリューション

 コンサルティング業界は、明らかにダイリューション(希薄化)が起きている。どのファームからもそのような事例が聞こえてきます。例えば、「以前であれば明らかに採用基準を満たさないような人材が入社してきた」、「かつてない規模の新卒採用枠になっている」、「コンサルティング経験はおろか、マネジメント経験もない人材が、マネージャーポジションで入社してきた」など、明らかにここ数年での入社組と、それ以前の入社組で人材の質・量に違いがあるようです。
 戦略ファームはこれまで、やみくもに規模を追わない経営を行ってきました。アップオアアウトは、規模を追うにあたっては足枷になるものですが、それでも質を担保するために、ルールとしてきました。しかし、デジタル化の進展とともに、デジタル領域の支援が不可欠となり、純度100%の戦略ファームであることの方がリスクになってきています。デジタル領域が事業領域にプラスされることにより、当然陣容を拡大せざるを得ません。
 ところが、人材の上位レイヤーから採用してきたコンサルティングファームにとって、採用枠を広げようと思うと、上位レイヤーに開拓余地はあまり残されていません。当然これまでよりも下位の層にアプローチせざるを得なくなります。これによって、ダイリューションが起きているのです。デジタル人材が混じることによる多様化は、業界の進化にとって歓迎すべきことですが、新旧人財にレベルの差が生じてしまうことは、組織内に軋轢を生むことになりかねません。

コンサルタント=希少種でなくなった時代

 コンサルタントを貴重な人材として積極的に仕事を紹介してきたエージェントも、コンサル飽和の時代になり、徐々に見方が厳しくなってきています。コンサルタント出身者が労働市場で重宝されるのは、いい意味でジェネラリストであり、なんでもできるスーパーサラリーマンであったため、非常に使い勝手が良かったからです。ところが、コンサルタント出身者が増えてきた昨今では、「何でもできます」という看板が通用しなくなり、「何ができるのかよくわからない人」に見えてしまっているようです。戦略ファーム出身者はまだ優遇されている面もありますが、これから総合化が進むとそうも言ってられなくなるでしょう。
 今後はジェネラリストとしての武器も持ちつつ、コンサル会社でDXやデータ分析、営業・マーケティング、もしくは得意なセクターなど、色を付けていくことがキャリア戦略上必要になりそうです。

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